Technical Guide
真空の力
「真空」と聞くと、 “吸い込む力”というイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし、実は真空そのものが力を持っているわけではなく、大気圧とのバランスで力が生まれるのです。
ペットボトルを口で吸って凹ませると、「吸い込んだ力で引っ張っている」と感じるかもしれません。
正確には、内部の空気を減らして圧力を下げることで、外から大気圧が押し潰している状態なのです。
真空と大気圧:目に見えない圧力とは?
私たちのまわりには、実は目に見えない空気の重さがあります。
大気圧は1気圧=約1013hPa(ヘクトパスカル)、約1kgf/cm²です。
つまり、1cm四方に1kgの力で押さえつけられている状態なのです。

たとえば、
・ハガキ1枚分(約100cm²) → 約100kgの力で押されている
・A4用紙1枚分 → 約600kgもの力がかかっている
しかし、普段は内側からも同じ力がかかっているので、押されても潰れません。
圧力は下がっても「押す力」はほとんど変わらない?
一口に「真空」といっても、低真空から超高真空、極高真空まであり、
イメージ的には極高真空の方が吸う力は強そうに感じますよね。
しかし、重要なのは大気圧(約10⁵Pa)との差なので、1000 Paでも10⁻⁵Paでも、外から押す力はほとんど変わらないということです。

例えば:
・1000 Pa → 105 Paとの差:9.9 x 104 Pa
・10⁻⁵ Pa → 105 Paとの差:約105 Pa
どちらも大気圧との「差」で見ると、ほぼ同じように押される力がかかっているのです。
真空容器の設計
真空容器には先述のように強い力がかかるため、それに耐えられる設計が必要です。
直方体のチャンバーであれば、耐えられる板圧にするか、軽量化等が必要な場合にはリブ構造にします。
また、円筒形のチャンバーの場合には注意が必要です。
円筒形の容器は、「内側から膨らむ力(加圧)」にはとても強く、理由は、力が均等に分散するからです。
しかし、真空容器として同じ形を使うと、潰れてしまうことがあります。
なぜかというと、外から押される力(真空)は局所的に力が集中しやすく、
特に側面がペコッと変形し始めると、一気に潰れてしまいます。
加圧では滅多なことでは破裂しないペットボトルが、口で吸うだけで凹んでしまうのと同様です。
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