真空技術ガイド

Technical Guide

絶対圧とゲージ圧の違いとは?真空で絶対圧が必要な理由

圧力の基準とは

圧力とは、単位面積あたりにかかる力のことです。

しかし「どこを0(=基準)とするか」で数値の意味が変わってきます。

この基準の違いによって、「絶対圧」と「ゲージ圧」が使い分けられています。

絶対圧(絶対圧力)とは

  • 基準:絶対真空を0 Paとする圧力
  • 圧力の国際的な定義(パスカル Pa)は絶対圧に基づいています。
  • 標準大気圧は絶対圧で 101,325 Pa(=1,013 hPa)とされています。
  • 周囲の圧力の影響を受けない絶対的な値です。

真空技術や熱力学、流体力学では必ず絶対圧力が使われます。

ゲージ圧とは

  • 基準:周囲の圧力(通常は大気圧)を0 Paとする圧力
  • ふだん私たちが使う圧力計(タイヤゲージ、コンプレッサーの圧力計など)はゲージ圧です。
  • 例:タイヤの空気圧 200 kPa(ゲージ圧)= 約 300 kPa(絶対圧)
  • 周囲の圧力によって基準が変わる、相対的な値です。

ゲージ圧でプラスの場合を正圧。マイナスの場合は負圧といい、

これにより、対象の容器が内側・外側のどちらから圧力を受けているかの区別をしています。

単位について

絶対圧もゲージ圧も、どちらも単位は Pa(パスカル) で表されます。

ゲージ圧を特に区別したい場合には PaG と書くこともありますが、

実際にはゲージ圧も「Pa」で表記されることが多く、文脈や内容から判断するしかありません。

また、Pa以外にもさまざまな圧力の単位が絶対圧・ゲージ圧両方で使用されています。

単位換算についてはこちら

絶対圧とゲージ圧の関係

絶対圧=周囲の圧力(大気圧)+ゲージ圧となります。

図解すると下記のようになります。

「マイナスが測れるゲージ圧計」で真空は測れる?

一部の圧力計は、大気圧を基準にプラス(正圧)もマイナス(負圧)も表示できます。

そのため「マイナスが表示されるなら、そのまま大気圧を足せば絶対圧も測れるのでは?」と考えがちです。

しかし実際には、ゲージ圧計だけでは正しい真空度を測定することはできません。

理由1:基準が変動する

ゲージ圧計は「その場の大気圧」を基準にしています。

例えば、圧力計が -100 kPa(= -100,000PaG) を示したとします。

  • 大気圧が 1013 hPa(101,300 Pa) の場合 → 絶対圧は 約 1,300 Pa

  • 大気圧が 1001 hPa(100,100 Pa) の場合 → 絶対圧は 約 100 Pa

同じ -100 kPa の表示でも、絶対圧は 1,300 Pa と 100 Pa、つまり 10倍以上の差 になってしまいます。

大気圧の変動(十数 hPa)は、全体(約1000 hPa)から見れば小さな差にすぎません。
しかし、真空装置が扱う 数Pa以下の圧力領域にとっては、致命的な誤差を生み出します。

ゲージ圧計のマイナス表示は「その場の大気圧との差」であって、標準大気圧との差を表しているわけではないのです。

理由2:測定器の精度の限界

ゲージ圧計は通常 kPa 単位で設計されており、数Pa以下の領域では誤差が大きすぎます。

表示はできても「正しい値」を示しているとは限らないのです。

例外として‥上記の影響が小さい場合

10kPa以上(-90kPaG)の圧力や、真空に引けていれば圧力はわからなくとも問題ない場合には、ゲージ圧計で測定して問題ありません。

10,000Pa(10kPa)より低い圧力を測定したい場合には絶対圧真空計での測定が不可欠となります。

まとめ

  • 絶対圧(絶対圧力):基準を「絶対真空」に置いた圧力(Pa)
  • ゲージ圧:基準を「その場の大気圧」に置いた圧力(Pa または PaG)
  • 正圧/負圧:大気圧より圧力が高い/低いことを表現したもの
  • 真空の圧力を測定するには大気圧変動の影響や、測定機の誤差が大きいため絶対圧真空計での測定が必須
  • 標高や天候でも大気圧の基準は変わるので注意が必要

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