真空技術ガイド

Technical Guide

樹脂の基礎

樹脂について

樹脂とは?

有機高分子化合物を主とする材料で、軽量かつ加工性が良く、電気絶縁性や耐薬品性にも優れています。

ただし、金属材料に比べて気体放出量が多く耐熱性も低いため、真空容器内での使用は限定的です。

樹脂の特徴

  • 汎用樹脂は安価
  • 軽量
  • 電気絶縁性が高い
  • 耐薬品性に優れる
  • 金属に比べて耐熱性が低い
  • 気体放出量が多い(一部を除く)

用途・使われる部品例

  • シール部材
  • 水冷・エアー配管
  • ガラスの代用品
  • 絶縁材料
  • 各種カバー
  • 防振・緩衝部品

材質の種類

汎用プラスチック

単純な構造の物が多く製造しやすいため、全般的に安価です。耐熱温度や機械的強度はそこまで高くありません。

ポリ塩化ビニル

 塩化ビニルを重合して得られる樹脂で、可塑剤の添加量により軟質PVCと硬質PVCに分類されます。安価で耐薬品性や電気絶縁性に優れ、加工も容易です。ただし、高温に弱く、耐熱温度は約80℃程度で、経年劣化しやすいという欠点があります。気体放出量が多いため、真空装置では主に外部の絶縁材や外装カバーなどに用いられます。

アクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル(PMMA))

 アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを重合した樹脂の総称で、代表例としてPMMA(ポリメタクリル酸メチル)があります。PMMAは可視光透過率が90%以上と非常に高く、ガラスよりも軽量で割れにくいため、真空度が高くない真空装置の窓材として使用されることがあります。加工が容易で、耐紫外線性や電気絶縁性にも優れますが、耐熱温度は約80℃と低く、有機溶剤に弱く、耐摩耗性も劣るという欠点があります。

フェノール樹脂(ベークライト、(紙/布)ベーク)

 熱硬化性樹脂の一種であり、高い電気絶縁性と耐熱性、硬度、耐薬品性を備えています。フェノールとホルムアルデヒドを原料に合成され、使用する触媒の違いにより、レゾール型とノボラック型に分類されます。

耐熱温度は約150℃で、色は褐色や黒色が一般的です。アルカリに弱く、構造が複雑で硬化収縮率も高いため、複雑な形状の成形には不向きです。そのため、通常は紙や布などの基材と組み合わせた複合材料として使用され、高い硬度に伴う脆さを補っています。

エンジニアリングプラスチック(エンプラ)

 汎用プラスチックよりも高性能な材料で、「エンプラ」と略して呼ばれます。明確な定義はありませんが、一般には耐熱温度が100℃以上のプラスチックを指します。耐熱性、機械的強度、耐薬品性、耐摩耗性などに優れ、主に工業用途で使用される高機能材料です。

ポリカーボネート樹脂(ポリカ)

 熱可塑性プラスチックの一種で、ガラスに近い高い透明性と難燃性を備えています。最大の特徴は優れた耐衝撃性で、ガラスやアクリルよりも割れにくいため、各種カバー用途で広く使用されています。耐熱温度は約130℃で、真空装置では窓材として用いられることもあります。

ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン(POM)、ジュラコン®、デルリン®)

 強度、剛性が高く、耐摩耗性や耐クリープ性にも優れているため、繰り返しまたは長時間にわたり応力がかかる箇所での使用に適しています。吸水性が低く寸法安定性に優れるほか、有機溶剤への耐性もあります。色は白色で、耐熱温度は約100℃です。
短所としては、接着や塗装が困難であること、燃えやすいこと、強酸や強アルカリ性の溶剤に対しては耐性が低いことが挙げられます。真空装置では、摺動部品、位置決めパーツ、絶縁部材、スペーサーやカラーなどに使用されます。ガス放出が少ないため、高真空レベルの装置内部でも使用可能です。

ポリアミド樹脂(ナイロン、アラミド)

 高い靭性と耐摩耗性を持ち、耐疲労性、耐薬品性、難燃性にも優れていることから、自動車部品や産業用機器のコネクタなどに使用されます。工業用部品にはナイロン系が多く使われており、耐熱温度は200℃を超えます。吸水性が高いという欠点がありますが、補強材の添加によって物性を調整できるため、汎用性の高い材料です。

ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタラート(PET)、PLA、PBTなど)

 ポリエステル樹脂には、ペットボトルの材料として知られるPETや、衣料用途に使われるポリエステル繊維など、さまざまな種類があります。主に熱硬化性と熱可塑性の2種類に分類されますが、エンプラとして利用されるのは熱可塑性のタイプです。

スーパーエンジニアリングプラスチック

 エンジニアリングプラスチックよりもさらに高性能で、耐熱性がおおよそ150℃以上のプラスチックを指します。高価なものが多く、主に特殊用途に使用されます。

ポリイミド(カプトン®、ベスペル®)

 商標名「カプトン」で知られるポリイミドは、−269℃の極低温から400℃の高温まで耐えられる広い使用温度範囲を持ち、優れた電気絶縁性を備えています。その特性から、フレキシブルプリント基板(FPC)の基材、鉄道・航空宇宙分野での絶縁部材、太陽電池の基板などに利用されています。半導体分野では固定用のカプトンテープとして広く使用されており、また強度にも優れているため、セラミックでは強度が不足するような箇所における高周波絶縁材としても活用されています。

ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)

 一般にPEEK(ピーク)と呼ばれるこの材料は、連続使用温度250℃程度の高い耐熱性を持ち、金属と同等の強度を備えています。耐熱水性や耐スチーム性に優れ、気体放出量も非常に少ないことから、真空装置内でも使用可能です。さらに、多くの酸・アルカリ・有機溶剤に対して高い耐薬品性を有しますが、濃硫酸など一部の薬品には侵される可能性があるため注意が必要です。価格や加工コストは高いものの、摺動部品や電気絶縁部材など、金属の代替材料としても使用される高性能な材料です。

フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、PFA、FEP、ETFEなど)

 最も広く知られているフッ素樹脂はPTFEで、一般にはテフロン™の名で知られています。化学的に非常に安定しており、常温では酸・アルカリ・有機溶剤のいずれにも侵されず、膨潤もしません。最高連続使用温度は280℃で、真空装置の低温ベーキングにも十分に対応可能です。吸水率はゼロで気体放出量も極めて少なく、超高真空環境でも使用できます。さらに、優れた熱絶縁性・電気絶縁性を持ち、真空容器内の絶縁材、シール材、あるいは低摩擦性を活かした摺動部品材として用いられています。

他材料との比較(選定ポイント)

比較対象:ガラス・セラミックス

汎用品においては、耐熱性が劣り気体放出量が多いが、軽量で安価

靭性、耐衝撃性、加工のしやすさは樹脂の方が優れる

洗浄方法

脱脂洗浄