真空技術ガイド

Technical Guide

真空ポンプのしくみと種類

真空ポンプとは

真空ポンプは、密閉された空間内の気体を外部に排出することで、内部の圧力を下げる装置です

低~中真空 高真空という区別につきまして、詳しい解説は下記の記事をご参照ください。

真空とは?

主な使用領域が低~中真空のポンプ

液体封止ポンプ

油回転ポンプ(ロータリーポンプ)

油回転ポンプは、ロータと呼ばれる羽根を回転させることで気体の吸気、圧縮、排気を行っており、充填された油(オイル)によってその潤滑性と気密性を高めています。最も利用されているポンプの一つであり、よく他のポンプと組み合わせて使用されます。
大気圧から作動できるポンプの中では最も高効率のポンプであり、構造がシンプルで安定した排気性能を持ち、さらには安価であるといったメリットもあります。
一方で、1年に1回程度の定期的なオイル交換が必要であることや、水分に弱い、オイルミストが発生するといった点はデメリットともいえるでしょう。汚染を嫌う環境で仕様する場合は、油を使用しないドライポンプを選定することを推奨します。
到達真空度:10-1~1 Pa

水封ポンプ

水封ポンプは、羽根車(翼車)の回転によって、封液(水)をポンプケース内壁に押し付けてシールを行いながら、気体を移送する真空ポンプです。封液は遠心力によりポンプケース内壁に沿って回転し、羽根と液膜に囲まれた空間が形成されます。偏心させることにより、この空間は容積を変化させ、順次膨張する膨張室と順次圧縮される圧縮室となります。これにより、吸気口と排気口を適切に設けることで、羽根車の回転に合わせて気体を圧縮し排出する機能をします。
封液として水を使用しているため、排気に水分が含まれていても問題なく排気が可能です。ただし、水の蒸気圧よりも低い圧力には排気できないというデメリットがあります。
到達真空度:103 Pa台

ドライポンプ

メカニカルブースターポンプ(ルーツポンプ)

ルーツポンプは、ポンプケースの中にお互いに反対方向に回転する一対の8の字形ロータにより気体を輸送する真空ポンプです。
メカニカルブースターポンプと呼ばれ、排気系の中間圧力領域での排気速度を増大させる目的で、ロータリーポンプ等と組み合わせて使用されます。
到達真空度:10-1 Pa台

多段ルーツポンプ

単にドライポンプと呼ぶ場合、この多段ループポンプを指すことが多いです。
多段ルーツポンプは、その名のとおりルーツポンプの構造を複数段に重ねた真空ポンプです。段を重ねることで、圧力を段階的に低下させ、より高い真空度を得ることが可能です。
このポンプは、メカニカルブースターポンプのように補助ポンプを必要とせず、単体で到達真空度まで排気できる点が大きな特長です。また、オイルを使用しないことと摩擦によるパーティクルの発生が少ないため、クリーンな排気が可能です。これにより、半導体などの微細な製品のプロセスやクリーンルームなどの清浄度が求められる環境にも適しています。
さらに、処理容量に応じてさまざまなサイズ(容量)が用意されており、用途に合わせた柔軟な選定が可能です。
到達真空度:10-1 Pa台

スクロールポンプ

スクロールポンプは、インボリュート曲線※1で形成された固定スクロールと旋回スクロールを組み合わせた構造を持ちます。各々のスクロールを180度ずらした状態で組み合わさっていて、これらをお互いの揺動運動させることにより吸引気体を大気圧まで圧縮する真空ポンプです。
油を使用しないドライ真空ポンプの一種で、低振動、低騒音が特徴です。静音性や清浄な環境が求められるところで使用されます。
このポンプは、多段ルーツポンプより安価ですが、大容量の排気に向いていないというデメリットがあります。
到達真空度:1 Pa台

※1 インボリュート曲線・・・円に巻き付けられた糸を絶えず伸ばしながら開いていくときに糸の端面が描く伸開線

スクリューポンプ

スクリューポンプは、一対のスクリュー形ロータを非接触で互いに反対方向に等速度で回転させ、吸引した気体を圧縮して排気する真空ポンプです。
スクリュー形ロータのねじ溝部分とポンプケースに囲まれた移送空間に気体が隔離され、ロータの回転によって吸気口から排気口に向けて気体が軸方向に移送されます。
このポンプは、大気圧から到達圧力まで単体で排気が可能です。また、耐腐食性仕様の製品も多く用意されており、腐食性ガスを扱う化学工業などの用途にも適しています。
到達真空度:10-1 Pa台

クローポンプ

クローポンプは、非接触で互いに反対方向に等速度で回転する爪状の突起を持つ一対のクロー形ロータが、吸引した気体を圧縮し排気する真空ポンプです。ステータとロータでセルフバルブ機構を構成し、極力逆流を防ぎ、効率よく排気できる構造となっています。
このポンプは、排気速度が速く、逆流も少なく、省エネといった特徴を持ちます。ただし、低真空の領域で効率が良いため、高真空を求める場合には適しません。
到達真空度:103 Pa台

ダイヤフラムポンプ

ダイヤフラムポンプは偏心回転軸に取り付けられて上下運動するダイヤフラムとポンプヘッドとの空間の拡大・縮小につることにより気体を輸送する真空ポンプです。
このポンプは、オイルを使用していないため、クリーンな排気が可能で、メンテナンス性に優れています。ただし、大容量と高真空には不向きというデメリットがあります。
到達真空度:102 Pa台

ソープションポンプ

ソープションポンプは、モレキュラーシーブ(多孔性物質であり、人口沸石の一種、穴の径は分子直径に近く、吸着量や吸着平衡圧に優れた特性を持つ)や活性炭などの吸着材を液体窒素で冷却し、分子を吸着させて気体を除去する真空ポンプです。
このポンプは、後述のクライオポンプと似た方法で排気する真空ポンプですが、クライオポンプとは異なり大気圧から排気することが出来ます。クライオポンプと同様で、吸着材を再生する作業が必要です。
到達真空度:10-3 Pa台

主な使用領域が高真空

ターボ分子ポンプ

ターボ分子ポンプは、気体分子に特定の方向の運動量を与え、排気する真空ポンプです。排気作用を生み出すための翼列(高速回転する動翼と軸方向に対向するように配置された翼列である静翼が軸方向に交互に組み合わされた多段構造)を持ちます。
このポンプはオイルを使用しないため、クリーンな高真空を得る用途において汎用性が高く、分子流領域においても排気速度が一定で、連続的なガスの排気が可能です。ただし、大気圧から直接排気を開始すると、動翼に過大な負荷がかかり、破損する恐れがあるため、通常は粗引きポンプで予備排気を行った後に使用されます。
到達真空度:10-8 Pa台

クライオポンプ

クライオポンプは、ため込み式ポンプの一種です。真空ポンプ内に極低温面を形成することで、物理吸着を利用して、ここに飛び込んできた容器内の気体分子を凝縮または吸着させて捕捉し排気します。
このポンプは、ため込み式のポンプのため、ガスを流しながらの排気には向かず、定期的に再生が必要です。
到達真空度:10-7 Pa台

油拡散ポンプ

油拡散ポンプは、作動液の蒸気を気体中に噴出させ、吸気口より飛び込んだ気体分子が蒸気流の方向に運動エネルギー与え、気体を圧縮し排気する真空ポンプです。吸入気体が分子流領域の場合に効率よく作動します。一方、真空側に油蒸気が逆流するため、必要に応じて、吸気口に逆流を防ぐトラップやバッフル等の気体が使用される場合もあります。
このポンプは、ターボ分子ポンプやクライオポンプより安価で高真空を得られますが、油蒸気が発生するため、クリーンな環境での使用に向きません。
到達真空度:10-6 Pa台

主な使用領域が超高真空 極高真空

ゲッタポンプ(サブリメーションポンプ)

ゲッタポンプは、ため込み式ポンプの一種で、チタンやタンタル、モリブデン、ジルコニウム、アルミニウム、バナジウムやそれらの合金の化学的に活性な材料が化学吸着する(ゲッタ作用)により気体を排気する真空ポンプです。
このポンプは、分析機などに使用される超高真空用のポンプで、イオンポンプと併用で超高真空が得られます。
到達真空度:10-9 Pa台

イオンポンプ

イオンポンプは、イオン化された気体分子による陰極スパッタリングや強い平行磁界中で高電圧を印加し、ペニング放電を起こすことにより、イオン化された気体分子が陰極に衝突し、陰極に埋め込まれることより陽極上に活性なゲッタ面を連続に作り、排気を行う真空ポンプです。
このポンプは、ゲッタポンプと似ていますが、スパッタにてチタン原子をイオン化させることで、ゲッタポンプでは難しいArやHeなどの希ガスについても効率よく排気することができます。動作範囲が、高真空からになるため、粗びきが必要です。
到達真空度:10-10 Pa台

真空ポンプの使用範囲